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大津地方裁判所 昭和41年(行ウ)1号 判決

原告 清水惣株式会社

被告 近江八幡税務署長 ほか一名

訴訟代理人 上野至 ほか五名

主文

一、昭和四一年(行ウ)第一号事件につき

被告が原告に対し、昭和四〇年六月三〇日付でした原告の昭和三八年一二月一日から昭和三九年一一月三〇日までの事業年度の法人税更正処分のうち課税所得金額金四、二五四、三一六円を超える部分を取消す。

二、昭和四二年(行ウ)第二号事件につき

被告が原告に対し、昭和四一年六月三〇日付でした原告の昭和三九年一二月一日から昭和四〇年一一月三〇日までの事業年度の法人税更正処分のうち課税所得金額一、五一六、五一三円を超える部分を取消す。

三、訴訟費用は両事件とも被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

主文一ないし三項と同旨。

(被告)

両事件につき、いずれも、

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張(両事件共通)

(請求の原因)

一、被告は、原告の昭和三八年一二月一日から昭和三九年一一月三〇日までの事業年度(以下本件第一事業年度という。)の法人税額の確定申告に対し、昭和四〇年六月三〇日付で更正処分をなし(同年三月三一日付更正決定を減額再更正したもの。以上本件第一処分という。)、課税所得金額を六、三一五、三二九円と更正し、さらに原告の昭和三九年一二月一日から昭和四〇年一一月三〇日までの事業年度(以下本件第二事業年度という。)の法人税額の確定申告に対しても、昭和四一年六月三〇日付で更正処分(以下本件第二処分という。)をなし、課税所得金額を四、〇九八、六四七円と更正した。

二、しかしながら、本件第一、第二処分は、原告が訴外東洋化成工業株式会社(以下訴外会社という。)に無利息融資したことにつき、その利息相当分を寄付金と認定し、寄付金損金不算入額として、本件第一処分が第一事業年度の所得金額に二、〇六一、〇一三円、本件第二処分が第二事業年度の所得金額に二、五八二、一三四円を各加算計上してなしたもので、寄付金でないものを寄付金と認定してなした違法なものである。

三、そこで、原告は、昭和四〇年四月一七日付で前記同年三月三一日付更正決定に対し、被告に異議申立をなしたところ、同年六月三〇日付で棄却されたので、同年七月二〇日付で大阪国税局長に対し審査請求したがこれも同年一一月九日付で棄却された。また、本件第二処分についても、昭和四一年七月一八日付で被告に異議申立をなしたところ、同年一〇月一三日付で棄却されたので、同年一一月一二日付で大阪国税局長に対し審査請求したが、これも昭和四二年二月二三日付で棄却された。

四、よつて、本件第一処分のうち課税所得金額四、二五四、三一六円(六、三一五、三二九円-二、〇六一、〇一三円)を超える部分、本件第二処分のうち課税所得金額一、五一六、五一三円(四、〇九八、六四七円-二、五八二、一三四円)を超える部分の各取消を求める。

(請求の原因に対する答弁および主張)

一、請求の原因第一、第三項記載の事実は、認める。

同第二項記載の事実のうち、被告が寄付金損金不算入額として原告主張の額を所得金額に計上した点は認めるが、そのことが違法であるとの主張は争う。

二、被告が、原告の訴外会社に対する無利息融資につき、その利息相当額を寄付金と認定し、課税所得金額を更正した経緯は次のとおりである。

(一)、原告は、昭和二六年七月三日織物、繊維製品、雑貨の売買、及び貿易を目的とし資本金一〇〇万円(昭和四〇年一一月三〇日現在資本金は一、九〇〇万円)で設立された株式会社であり、訴外東洋化成工業株式会社は、昭和三七年一一月一日に繊維、化成品の製造並びに販売を目的とし、資本金五〇〇万円(右同日現在資本金は二、〇〇〇万円)で設立された会社であり、ともに法人税法上の同族会社である。

そして、原告は、昭和四〇年一一月三〇日現在において訴外会社の発行済株式四〇、〇〇〇株のうち一六、〇二八株を保有していて、両者は、いわゆる親会社、子会社の関係にある。

(二)、原告は、昭和三七年一二月一日訴外会社に対し、訴外会社の事業達成を援助する目的で期間を三か年間に限り、四、〇〇〇万円を限度として無利息で融資する旨の契約を締結した。そして、右契約に基づく本件第一、第二事業年度における融資状況は、その各月末現在における融資残額をもつて表示すると別表記載のとおりになる。

(三)、そして(1) 、原告は、右無利息融資期間とされている三か年を経過後訴外会社が融資ずみ金員の返済ができないときは、その元本に対して年七分の利息を徴収するものとしていたこと、(2) 、そのように約定したのは、本来利息は徴収すべきであるが、右三か年間は訴外会社の業績が芳しくないであろうとの判断に基づくものであること、(3) 、原告は、本件融資契約を締結した日を含む事業年度(昭和三七年一二月一日以降同三八年一一月三〇日までの間)において、かなりの借入れがあり、その手形割引を含む期末現在における借入金残高総額一四七、六六六、三七一円、これに対する支払利息は未経過利息、割引料を含めて総額一三、五九九、三七七円にも及ぶ多額を計上しており、かつ、右借入金のうちからも随時相当額が訴外会社に対し無利息融資される実情にあつたため、それら融資額元本について本来訴外会社が負担すべき利息を、原告が右支払利息の中で負担していたものと認められること、等からすると、原告としては、本件融資契約当時利息を徴収する必要性を念頭においていたものの、新規発足したばかりの子会社たる訴外会社の立場を考慮し、別段の反対給付自体全く期待しないまま、専ら友好的な見地から無利息としたものであることが認められる。

したがつて、原告は、通常収入すべき利息相当額の経済的利益を、訴外会社に無償供与したものというべきである。

(四)、一般論として、営利法人が無利息融資をするということは、抽象的に措定された意味における合理的経済人の観点からみると、極めて異常な行為である。

本件においても、(1) 、訴外会社は、昭和三七年一二月一日から同三八年一一月三〇日に至る事業年度において、金融機関から相当額の融資を受けて所定の利息を支払つている(借入金の期末残高は一九、四〇〇、〇〇〇円、未経過利息を含めてその支払利息八一九、九六二円をそれぞれ計上している。)こと、(2) 、訴外会社は、右年度において、原告会社の重役で訴外会社の重役を兼任する者に対し、合計九二〇、〇〇〇円の役員報酬を支払つていること、(3) 、訴外会社は、右年度において、右支払利息、兼務役員に対する支払報酬等の経費を負担したうえ、なおかつ、一、二九五、五六五円におよぶ公表利益を計上し、その利益処分として年一〇パーセントの利益配当を行なつていること、からすると、訴外会社は、設立の当初から融資に対する利息の支払ができないような資産状態ではなかつたものということができ、したがつて、原告が本件融資を無利息したことについては、法人税の取扱い上合理的な理由がないものというべきである。

(五)、又本件融資は、訴外会社が予定された資金借入が不能になつた故、原告会社が金融機関に代つて資金貸付を行なつたものであり、このことは親会社の子会社に対する育成融資というよりは原告会社が単に金融機関の代りをつとめたものであり、それにもかかわらず無利息としたのは原告が無利息融資をすることにより利息収入を抑止し、課税負担の減少を意図したものと認められる。

(六)、ところで、法人税の基本的な立場としては、たとえ一〇〇パーセントの親子会社の間であつても、課税上の取扱いは、全く別の独立した他の法人として取扱つているのであり、又本件融資における利息相当額は現行法人税法二二条二項にいう収益にあたり益金とされるのであるが(このことは旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)九条一項においても同様に解されていたものである)、それは現実には貸主に収受されないため、貸主たる会社の資産として残存せず右経済的利益は社外流出したものとして、その税法上の性格すなわちその損金性を検討する必要が生じてくるのである。

そこで右利息相当額の経済的利益の社外流出の損金性であるが、旧法人税法九条三項にいう寄付金とは直接に見返り対価を有しない給付を総称し、その給付とは金銭その他の資産、経済的利益の贈与あるいは無償の供与を問わないものと解されていたから(この趣旨は現行法人税法三七条五項においても明文上確認されている)原告の訴外会社に対する本件無利息融資による利息相当額の経済的利益の無償供与は右寄付金にあたるといわねばならない。

もつとも、現行法人税法三七条五項は、広告宣伝費及び見本品の費用その他これに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とさるべきものについては、寄付金ではなく損金算入を認めているが、本件利息相当額の経済的利益の無償供与は、右のいずれにも該当しない。すなわちまず、これらの費目の言葉の概念としてみた揚合、見本品の費用にあたらないことは自明であり、広告宣伝費は不特定多数の者に対する宣伝効果を目的とするものであるから本件無利息融資がこれらにあたらないことは当然であり、さらに「その他これらに類する費用」という概念も、右広告宣伝費、見本品費の言葉の概念から見て自からその限界があり、本件無利息融資が「その他これらに類する費用」にあたるとはいえない。さらに交際費、接待費とは接待、きよう応、慰安贈答のたぐいに要する費用をいい、その趣旨からみて本件無利息融資を交際費、接待費と解することはできない。なお、「とされるべきもの」とは交際費、接待費そのものの意味であり、「その他これらに類する費用」が類似性をもつて足りるのに対し、「とされるべきもの」とは同一物をさす。福利厚生費は本件無利息融資とは全々関係がない。

さらに右除外規定の立法趣旨はその費用の支出が直接当該企業の事業収益に向けられていることが社会通念上、明らかであるから会計目的上の要請から損金算入を認めたものである。

ところが原告の無利息融資は直接原告の事業収益と関係あるとはいえず、仮りに訴外会社から将来なんらかの反対給付の期待があるとしても、それはあくまでも長期的視野に立脚した間接的かつ漠然とした収益を期待するに止まるというべきで、このような場合、原告に直接的に反対給付をもたらすとはいい難く、結局利息相当額は寄付金として認定するのが至当である。

(七)、以上要するに、原告が本件融資をするにあたり、これを無利息としたことは、法人税の負担を不当に軽減することを企図したもの、あるいは、これを意図したものでないとしても、前記のように無利息とすることは経済的合理性を全く無視したものであつて、法人税の負担を不当に免れる結果になるもの、というべきである。

したがつて、原告は経理の実際においては、利息相当額を損金に計上処理したわけではないが、税法上は損金に算入したものとみなされる関係にあるから、これを否認し、前記のように寄付金と認定し、寄付金のうち法令により損金算入が認められている限度を超える部分の金額を本件第一、第二事業年度の所得金額の計算上損金に算入しないで更正した本件第一、第二処分はいずれも適法である。

三、本件において寄付金とされる利息相当額とこの損金不算入額の具体的な計算課程は、次のとおりである。

(一)、利息相当額の算出

利息計算は、通常個々の融資額ごとに、その期間に応じて計算されるべきものであるが、本件の場合、その融資、返済の出入り回数が多く、また、その金額が大小さまざまであるため、その融資額ごとに適正なる利息相当額を計算することは複雑困難であるばかりでなく、その実益が少ないものと認められた。そこで、被告は、その最も合理的な計算方法として前記融資残額表の合計金額を一二か月で除し、原告の訴外会社に対する本件係争事業年度中における各月末現在の平均融資残額を算定のうえ、これに通常借入に必要な利率と考えられる年一〇パーセントを乗じて利息相当額を算出した。

したがつて、本件第一事業年度の利息相当額は、二、一四一、七三九円であり、本件第二事業年度の利息相当額は、二、六五四、四六〇円となる。(本件第一事業年度につき 257,008,714円×(1/12)×(1/10)≒2,141,739円、本件第二事業年度につき、318,535,210円×(1/12)×(1/10)≒2,654,460円 )

(二)、寄付金の損金不算入額

右算定の各利息相当額について、本件第一事業年度については旧法人税法九条三項、同法施行規則(昭和二二年勅令一一一号)七条の規定に基づき、本件第二事業年度については法人税法三七条二項、同法施行令(昭和四〇年政令六七号)七三条の規定に基づいて寄付金損金不算入額を計算すると、前者については二、〇六一、〇一三円、後者については二、五八二、一三四円である。

(三)、よつて、原告の本件第一事業年度の所得金額の計算上寄付金損金不算入額として二、〇六一、〇一三円を加算した本件第一処分および本件第二事業年度の所得金額の計算上寄付金損金不算入額として二、五八二、一三四円を加算した本件第二処分は、いずれも適正である。

(被告の主張に対する原告の認否と反論)

一、被告の主張第二項のうち、(一)、(二)各記載の事実は認めるがその余は争う。同第三項の主張も争う。

二、被告は、原告が本件融資を無利息にしたのは、法人税の負担を不当に軽減することを企図したものと主張するが、原告にはそのような意図はなかつた。

また、子会社である訴外会社の支払利息金、役員報酬金、公表利益金等にみられる資産状態からして、本件融資に対する利息の支払ができないことはなかつたのであり、利息は本来徴収すべき筈のものであるから、本件融資を無利息としたことは経済的合理性を欠き法人税の負担を不当に免れる結果になると主張する。

しかしながら、右経済的合理性の有無の判定は、親会社が子会社に無利息融資すること、そのこと自体が不合理、不自然かどうかによつて決すべきことであつて、子会社を如何に経営するか、したがつて、その資本金、借入金更には営業実績等の一切は税務行政庁がせん索干渉すべき事柄ではないというべきである。

そこで右の観点から考えると次のようにいうことができる。

親会社が出資をして子会社を設立し、親会社への利益還元を期待してこれを育成援助することは世上通例のことである。このことは、同族会社であつても、非同族会社であつても変りはない。

そして、右育成援助の仕方も、当該企業が営利政策の見地から自由に資金の融通、担保の供与、資材の支給等の方法を選択決定できるのであり、原告の訴外会社に対する本件無利息融資行為も、子会社である訴外会社の育成援助のための初歩的な通常の手段に属し、したがつて、本件無利息融資は、被告の主張のような不合理、不自然なものということはできない。

原告会社は本件無利息融資によつて税負担を減少させたのではなくこれによつて子会社たる訴外会社を育成して倍旧の利潤をあげ、訴外会社共々納税の実を挙げている次第であつて、かえつて法人税納付を増加させる結果となつているのである。

三、次に被告は原告会社の本件行為計算を否認した上これを寄付金であると結論づけるが、不当不法である。

なるほど本件無利息融資により原告は訴外会社に対し形式的には利息相当額の経済的利益を無償供与したことにはなろう。

しかしながら、右経済的利益の無償供与(または贈与)は必ずしも常に寄付金であるとは限らないのであつて、寄付金に該当する場合もあれば、該当しない場合もあるのであり、寄付金に該当するかどうかは右無償供与が供与者の事業活動に関係を有するかどうかによつて決すべきである。

すなわち事業活動に関係ないものが寄付金であり(それ故本来損金に算入すべき筋合のものではない。その算入を認めているのは例外的、便宜的な立法措置に過ぎない。)、事業活動に関係あるものは寄付金ではない。従つて同法三七条五項括弧書で宣伝費等とさるべきものを寄付金から除外したのは当然である。

本件の無利息融資は、前記のとおり原告会社が商業人として利潤追求のためにする子会社育成援助の手段であつて、このことは原告会社の事業活動に関係があるというより、直接事業収益に向けられた事業活動の一環であり、事業活動そのものなのである。

これを要するに被告は税法にいう「寄付金」の解釈を誤り税法の基本理念を逸脱して強引にも本件無利息融資につき利息相当分を寄付金であると認定するものであつて、到底承服できない。

四、仮に、利息相当額が寄付金と認定されるべきものであるとしても、原告は、訴外会社に対し、無利息融資期間経過後は、年七分の割合により利息を徴収することにしていたから、利息相当額を算出する利率は、少くとも、年七分を超えるものであつてはならず、年一割の割合によつて算出した本件各処分は不当である。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、原告が昭和二六年七月三日織物、繊維製品、雑貨の売買及び貿易を目的として設立された株式会社であり、訴外東洋化成工業株式会社が昭和三七年一一月一日に繊維、化成品の製造並びに販売を目的として設立された会社であること、及び原告が昭和四〇年一一月三〇日現在において訴外会社の発行済株式四万株のうち、一六、〇二八株を保有しており、原告と訴外会社がいわゆる親会社、子会社の関係にあることは、いずれも当事者間に争いがない。

そして、原告が訴外会社に昭和三七年一二月一日訴外会社の事業達成を援助する目的で期間を三か年間に限り四、〇〇〇万円を限度として無利息で融資することとし、その頃から随時資金の貸付けを行なつたこと(以下本件無利息融資という。)、そして本件第一、第二事業年度の各月末現在における融資残額は別表記載の通りであること。被告が原告の本件第一事業年度の法人税の確定申告に対し、本件第一処分により右無利息融資における利息相当額を寄付金と認定し、寄付金損金不算入額として二、〇六一、〇一三円を所得金額に計上して課税所得金額を六、三一五、三二九円と更正し、さらに本件第二事業年度の確定申告に対しても、本件第二処分により右同様理由から寄付金損金不算入額として二、五八二、一三四円を所得金額に計上して課税所得金額を四、〇九八、六四七円と更正したことも、当裏者間に争いがない。

二、そこで、本件第一、第二処分により、本件無利息融資における利息相当額につき、これを寄付金と認定し、その寄付金損金不算入額に対して課税したことの適法性につき判断する。

(一)、そもそも、原告は訴外会社に対し無利息の約定で本件融資を行なつたのであるから、私法上の効力としては、訴外会社に対する利息債権が発生していないことは明らかである。したがつて、右私法上の効力をそのまま税法上も是認する時は、原告は訴外会社から法人税法所定の益金となるべき収益を得ていないのであるから、利息相当額につき課税する余地はない筈のものである。

しかしながら、原告が本件融資をするにあたり無利息としたことが、私法上許された法形式を濫用することにより、租税負担を不当に回避しまたは軽減することが企図されている場合、あるいはこれを意図したものでないとしても、無利息とすることが経済的合理性を全く無視したものであると認められる様な場合には、実質的にみて租税負担の公平の原則に反する結果になるから、右無利息融資行為をいわゆる租税回避行為として、税法上相対的に否認して本来の実情に適合すべき法形式の行為に引き直して、その結果に基づいて課税しうるものと解すべきである。

したがつて、本件第一、第二処分により本件無利息融資における利息相当額につき課税したことが適法とされるためには、本件無利息融資が右租税回避行為にあたるということが、まず認定されなければならず、租税回避行為にあたるということが認められた場合にはじめて利息相当額につき課税する手段として、本件第一、第二処分の様に利息相当額を寄付金と認定し、寄付金損金不算入額を所得金額に計上することの当否が検討されることになる。

(二)、1、本件口頭弁論に提出された全証拠を検討しても、本件無利息融資が租税負担を不当に回避し、または軽減することを企図してなされたものであることを認めるに足る証拠はない。

被告は、原告の訴外会社に対する本件無利息融資は、親会社の子会社に対する育成融資というよりは、むしろ原告が単に金融機関の代りをつとめたものであり、それにもかかわらず無利息としたのは利息収入を抑止し、租税負担の軽減を意図したものというべきであると主張する。しかしながら、本件無利息融資は、原告が子会社たる訴外会社の事業達成を援助し、その早期育成を期し、早期に訴外会社から利潤の還元を得ようとしたものであつて、企業としての利潤追求の一手段に外ならないものであることは後記認定の通りであつて、他に原告の本件融資を、利息収入を得ることを主たる目的とする金融機関等の融資と同一視すべき証拠はない。したがつて、被告の右主張は理由がないものというべきである。

2、次に、本件無利息融資が経済的合理性を全く無視して行なわれたものであるかどうかにつき以下判断する。

(1)、およそ企業が出資して子会社を設立する場合は、特段の事情のない限り子会社からの利潤還元をその目的としているのが通常である。

ところで、原告が訴外会社を設立するに至つた経緯、本件無利息融資を行なうに至つた経緯についてみるに、〈証拠省略〉を総合すると、

原告は、織物、繊維製品等の販売を主たる営業内容とし、いわゆる問屋業を営んできたが、業界における機構改革や流通機構そのものの改革にそなえ、原告が販売する商品を製造、販売する部門を子会社として分離することを計画し、昭和三七年一一月一日資金を投入して化成品等の製造、販売を主たる目的とする訴外会社を設立し発足させた。訴外会社は、右同日から同月三〇日までの設立当初の事業年度においては、投下資本を全て土地と工場施設に費してしまい、資金難のため本格的な事業活動を開始するまでには至らず、約一一万円の欠損を計上していた。そのため、原告は、訴外会社に対し同年一二月一日訴外会社の事業達成を援助するため、創業及び運営等の資金として前認定のように本件無利息融資を行なうこととし、その頃から随時訴外会社が必要とする資金を無利息で貸付けた。この貸付けは、当初の約定通り三か年で打切られ、貸付金は昭和四〇年一一月三〇日までに返済された。

なお、その間原告は、訴外会社に対し訴外会社の必要とする原材料の殆んど全てを納入して一定の利潤を得、さらに訴外会社がこれを製造、加工した商品の殆んど全てを仕入れ、これを販売することにより一定の利潤を得ていたが、この様な関係はその後も続いている。

事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

右認定にかかる事実関係からすれば、(イ)、原告と訴外会社との間には、訴外会社の業績が伸びれば、原告もそれに伴い訴外会社に対する原材料の納入および訴外会社からの商品の仕入れの量が増加し、それだけ利潤があがるという関係があること、(ロ)、本件無利息融資は、訴外会社が資金難の状況下にあり、設立当初の事業年度において若干ながらも欠損を計上していて、融資に対する利息を支払う経済的能力は必ずしも十分ではなかつたため、止むを得ない措置であつたことが各推認され、本件無利息融資はそれ自体原告の利潤追求のための事業活動といえる。

(2)、つぎに被告は、訴外会社が昭和三七年一二月一日から同三八年一一月三〇日に至る事業年度において金融機関から相当額の融資を受けて所定の利息も支払つていたこと、役員報酬を支払い、若干の利益も計上していた等の事実をとらえて、訴外会社は設立の当初から融資に対ずる利息の支払いが出来ない様な資産状態ではなかつたものと認められるのに、原告が本件融資を無利息としたことは法人税の取扱い上合理的な理由がない旨主張し、成程〈証拠省略〉によれば、右各事実を認めることができるが、本件無利息融資が約定されたのは右事業年度が始まる昭和三七年一二月一日であって、当時訴外会社は融資に対する利息を支払う経済的能力が必ずしも十分でなかつたことは前認定のとおりであり、また(1) 、の事実と対比すれば、原告が同族会社である事実を考慮に入れても、なお右各事実から直ちに本件無利息融資が経済的合理性を全く無視して行なわれたものであるということはできず、他にこれを伺わしめる事実関係を認めるに足る証拠はない。

(三)、そうすると、本件無利息融資は、租税負担を不当に回避し、または軽減する意図に出でたものとも、経済的合理性を全く無視したものとも認められないから、租税回避行為にあたるとはいえず、その無利息の約定の私法上の効力を税法上否認すべき理由はないものといわなければならない。

したがつて、原告が訴外会社に無利息で融資したことにより租税の負担が軽減された結果になつたとしても、それは不当なものとはいえず、利息相当額につき課税すべきものとした本件第一、第二処分の当該部分は、その余の点について判断を加えるまでもなく違法なものとして取消されるべきである。

三、よつて、原告の、本件第一処分のうち課税所得金額四、二五四、三一六円(被告認定の課税所得金額から寄付金損金不算入額を控除した額)を超える部分と本件第二処分のうち課税所得金額一、五一六、五一三円(前同様)を超える部分の各取消を求める請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石井玄 杉本昭一 木村修治)

別表

第一事業年度 金額(円)

昭和38年11月 15,912,681

12月 17,523,502

昭和39年1月 20,367,264

2月 23,031,027

3月 28,016,247

4月 13,713,854

5月 15,638,059

6月 15,935,635

7月 18,237,795

8月 27,647,857

9月 32,325,124

10月 28,659,669

合計     257,008,714

第二事業年度 金額(円)

昭和39年度12月1日現在

26,323,614

12月末日現在 27,486,203

昭和40年1月 27,529,087

2月 23,480,809

3月 26,255,971

4月 27,278,629

5月 25,771,394

6月 24,555,633

7月 24,509,983

8月 34,093,926

9月 27,840,118

10月 23,410,443

合計     318,535,210

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